昨年12月に開催したオンラインイベント、trico×JALエンジニアリングpresents「今日からあなたも整備の“trico”」でいただいた質問に、エンジン整備センターの阿南さん、航空機整備センターの進藤さん、小林さん、廣海さん、部品サービスセンターの新原さんが一問一答形式でお答えします♪
後編はますます整備のマニアックな話題に!?では、早速まいりましょう!
ーーこの機体は整備が難しい!という機体の種類はありますか?
進藤:難しい!というほどではないですが、古い機材(ボーイング767、ボーイング737)は、アナログ式が多いので複雑な整備作業が多いですね。
新原:確かに。その反面、ボーイング767、ボーイング737は導入から年数も経過していることから、個人的には長く整備経験があり作業方法は熟知していますので、整備しやすいと感じることもあります。整備士それぞれの機材の経験年数などで、感じ方は違うかもしれません。
ーー機材ごとに、その機材ならではのこと、変わったところ、整備しづらいところ、ここは凄い!などを教えてください。
進藤:ボーイング787ですごいと思う点は、機内の湿度管理(お肌も乾燥しません!)、マイクロウェーブオーブン(機内食が美味しく食べられます!)、トイレにウォシュレットが付いていることです。以上のことから上空10,000メートルでも快適です。エアバスA350は、機内の荷物棚の扉が力を入れず閉めたり開けたりできます。整備しにくい点は、どの機材も似ていて、交換する部品の手前に壁や別の部品が置いてあり、手を入れられないことや直接見ることのできない部品はミラーを使い確認することなどです。面白いと思う点については、製造した国の特色がありその国ならではの発想があるところです。
ーーよく日本も航空機産業に関わっていると聞きますが、具体的に飛行機のどの部分なのでしょうか?
進藤:ボーイング787、777などの主翼、胴体の一部、飛行機のドアやタイヤ、炭素繊維素材など、日本の技術が活かされています。
ーー飛行機を整備する上で、ほかの乗り物と違って特に気にしなければならないことはありますか?
阿南:車と違って(空を飛んでいるので)その場で止めて整備というわけにはいかないため、一つ一つの確認に注意を払っています。当然要求される安全性も高く、厳しい基準を合格した飛行機しか飛ぶことはできません。流通している部品が少ないことから、交換したい部品が世界中で一つしかない!という状況が発生することもあるため、少しの異変も見逃さず、できる限り未然に発見することを意識しています。
ーージェット機とプロペラ機のメリット・デメリットについて教えていただきたいです。
進藤:プロペラ機の弱点は、高高度を飛行できないこと、そして速度が出ないことです。利点は、短い滑走路でも離着陸でき、燃費がよいです。また高翼機の場合が多く、視界がとてもいいです。ジェット機の利点は速度が速く、遠くまで飛行でき、大量に輸送が可能です。弱点は、滑走路の距離が必要な点です。
ーー燃費が良い・悪いなど、最新の機材は何が改善されているのか教えてください。
廣海:最近の飛行機の構造に使われる材料がアルミニウムからカーボン素材に変更され、さらに軽くなったため燃費が向上されています。また翼の形状も空力的に計算されたデザインになっています。エンジン前面のファンが大型化し、燃焼室の設計も改良されているので、エンジンの燃料効率が格段に高まりました。
騒音についてもボーイング787ではエンジン後ろの「シェブロンノズル」というギザギザの箇所で騒音を防ぐデザインになっており、以前の飛行機よりとても静かになっています。
ーー人間の目ではなく、AIでさまざまな劣化などを検知することは予定されていますか?
進藤:すでに、過去のトラブルをビッグデータで蓄積して予防整備作業に活かす試みをしています。
ーー整備作業のなかで一番大変な作業は何でしょうか?
進藤:各機材のエンジン交換作業、LANDING GEAR(着陸装置)交換は、多くの人員や器材が必要で、複雑な作業が多いため大変です。
ーー機体についているWi-Fiアンテナは後付けできるのですか?機体発注時のオプション設定のようなものですか?
進藤:後付けが可能です。また、発注するときも車と同じく、オプション設定で取り付け可能です。
ーー機外カメラが大好きなのですが、正直、整備するものが増えて大変だなと思われますか?
小林:そこまで大変ではありませんよ!時間とともにレンズ表面が汚れてくるので、定期的にクリーニングを実施していますので、ぜひご注目ください。
ーーノーズタイヤとメインタイヤではタイヤにかかる負荷が同じなのでしょうか?消耗が激しいのはどちらなのでしょう?
進藤:メインタイヤですね。ブレーキもメインタイヤに取り付いており、機体重量の大半を受け持っているため負荷がかかります。最新機材はラジアルタイヤを使用しているので、従来と比べると損耗は少なくなっています。
ーーエルロン(補助翼)の整備はどのようにしているのか気になります。よかったら教えてください!
小林:定期的に目視点検(外部検査)、保守(可動部の潤滑)、機能試験(コンピューターで翼を実際に動かす試験)を行っています。油圧の力で翼を動かしているのでまれに漏れることがありますが、整備士はその兆候を常にモニターし整備をしています。翼面に傷などを発見した場合には飛行機に取り付いた状態で修理できるものはその場で修理し、それ以上の場合は取り卸して修理することもあります。
ーー飛行機の換気能力について教えてください。
進藤:飛行機のエアコンは胴体下部にあります。エンジンから取り込んで圧縮した熱い空気と、冷たい空気を混ぜて機内に送っているんですよ。(ボーイング787はエンジンとは別に圧縮機があり、そこから空気を取り込むことでエンジンの負担を減らしています!)
エアコンの装置から送られてきた空気は貨物室の奥にある換気用ファンを通り、客室の天井から機内に供給されます。その後、空気は大きく二つに分かれ、一方はアウトフローバルブという穴から外に流れ出ていきます。もう一方は、機内を循環するために壁の床辺りのパネルから客室の下に流れていきます。その際には、医療機関などでも使用されているHEPAフィルターと呼ばれる装置を通過し、目に見えないバイキンやウイルス、塵や埃などは取り除かれ、綺麗な空気となって機内に送られています。
ちなみに、どの飛行機でも、3~5分間ですべての空気を入れ替えているんですよ!
ーーエンジンは使用していくうちに大量の空気を排出しているので、汚れも徐々に溜まっていくと思うのですが、エアコンの自動掃除みたいに汚れがとれる機能はあるのですか?
進藤:エンジンには自動掃除機能はないので、ウォーターウォッシュという整備方法で定期的にエンジン内部を洗浄しています。名前のとおり、溶剤などは一切使わず、エンジンをモータリング(空回し)運転しながら空気吸入口へ高圧の温水を吹きかけるという洗浄方法です。エンジンからの排水は専用の装置へ戻し、きれいに浄化され再使用し、環境に配慮して作業を行っています。最後に試運転を行い、正常にエンジンが作動しているか確認します。この作業を実施することで燃費向上、内部の部品の劣化を遅らせるといったメリットがあります。
ーーいろいろな機材がありますが、エンジン音で機材が何かわりますか?
進藤:各エンジンの音は機材によって特徴があります。高い音、重低音、笛のような音を感じて機材を判別できる整備士もいます。
ーーエンジンを部品ひとつにまでばらして組み立てるという話を聞いたことがありますが、整備の方は皆さん手先が器用で立体パズルなどは得意、好きな方が多いのでしょうか?
阿南:もともと機械いじりが好きで手先が器用な人もいれば、そうでない人もいます。手先の器用さはあまり関係なく、不器用な人でも長年の経験や日ごろの業務でスキルを磨き、同じように活躍している人もたくさんいますよ。
ーーコロナ禍で、整備関連のお仕事や環境で今までと変わったことはありますか?
進藤:整備作業に変化はありませんが、長期駐機中の機材が多く駐機していた昨年3月は通常作業に加え、長期停留用の特別整備作業が各機に追加され、とても忙しい時期でした。
ーー高松空港の整備士さんが手書きでつくられている豆知識のフリーペーパーがありますが、現場の方々の中ではどのような存在なのでしょうか?有名ですか?
小林:有名です!整備士のなかでも、資格取得のための勉強資料として使えるほどです。
ーープライベートで飛行機に乗った際に気になっちゃう「職業病だな」と思うことって何かありますか?
進藤:主翼の動きが気になります。地上で作動試験を行っているのとは違い、空気抵抗があるため、正常に作動しているか、つい気になってしまいます。
2回にわたってご紹介しました、JALエンジニアリングの整備士による一問一答。
イベントに参加いただいた皆さんも、参加いただいていない皆さんも「整備の“trico”」になっていただけましたか?
ふと空を見上げて飛行機を見つけたときには、JAL整備士を少しでも思い浮かべていただけたら嬉しいです。