先日JAL Facebookページで実施した、JAL運航乗務員への質問募集。今回は、ボーイング737-800型機機長の野口さんによる回答の後編をご紹介します!
ーー今までで、一番素晴らしいと思ったコックピットからの景色があれば教えてください。
野口:客室内の窓は数が限られており横方向にしか外の様子が見えないため、すべてのお客さまに素晴らしい景色をご提供できないこと、そして一番良い景色が見られるのがコックピットであることにいつも申し訳なさを感じています。
なので、コックピットからの景色を少しご紹介させていただきます。
例えば、夜間の日本発のホノルル行き。雲の上に出て満天の星空の中、日付変更線を越えると、コックピット正面の窓の暗闇が少し青白くなり、宇宙との境目が見えてきます。水平線がゆっくりと横に伸びていき、徐々に明るくなっていきます。やがて太陽が水平線を覗きこむように顔を出し、オレンジ色の光を放ちます。いつ見てもとても神々しく美しいと思える瞬間です。その後遠く広がる海の先に小さな島が見えてきます。そして朝露をまとったハワイ諸島の鮮やかな緑色を眼下にしながら、美しいコーラルブルーの海を携えたオアフ島へ向けて降下していきます。私が好きな景色のひとつです。
また、ヨーロッパ線では、夜間ロシア上空を飛ぶと北の空にオーロラが見えることがありますが、皆さんがイメージする地上から見るカーテン状のそれとは違い、少し緑がかった霧のようなものが暗闇の中でゆらゆらしながら見えます。とても幻想的です。
都市の夜景の光も、場所によって全く違います。日本上空の夜景は白色系の灯りが多いためとても明るく、海外上空の夜景は暖色系の灯りが多いため、やや暗いオレンジ色が広がります。
また、昼間は広大な森林や流れる川が見えるロシア上空やアラスカ上空は、夜になると真っ暗な闇が眼前に遠くまで広がっています。
何よりも四季折々の表情を見せてくれる日本列島の景色は、いつも本当に美しいと感じます。季節ごとに繊細な色を醸し出す白、緑、紅の山そして日本列島を取り巻く海岸線や青い海。改めて日本の自然の豊かさを感じます。それに加えて常に表情を変える富士山はどこから見ても格好良いですね。
見方が変われば、思いも変わります。
日常では見られない上空からの景色は、空の旅の醍醐味のひとつです。
皆さんの視点で、いろいろな思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
ーーUFOやサンタさんなど、不思議なものを見たことはありますか?また、めずらしい自然現象なども、見たことがあればお聞きしたいです。
野口:残念ながらまだUFO(未確認飛行物体)やソリに乗ったサンタさんを飛行中に見たことはありませんが「えっ!?」と思うことに遭遇することがあります。
夜、満天の星空の中に、明るい星のような光がひとつ、一定の速度で動いているのが見えました。流れ星にように、すぅーっと糸を引くように見えるわけでもありません。「UFO?」と思いましたが、実は人工衛星で、ちょうど上空を横切っているのが見えたものでした。ちなみに流れ星は、上空で晴れていれば、かなりの頻度で見ることができます。
また夜間、雨雲の中をしばらく飛行していると、目の前の窓の周辺に、小さな青紫色の光を見ることがあります。そして少しずつその光が伸びていき、やがて小さな雷のような光の線が無数に見えてきます。まるで幽霊が出てくるかのように。
実はこれは、「セントエルモの火」と言われる現象で、静電気を帯びた雨粒が機首に当たり、その静電気が機体にたまっていくことで、青紫色の発光現象が起きているのです。船のマストの先端にも発生することもあり、昔は、船を守ってくれる象徴とされたようです。
一方、空港内では鳥以外のいろいろな動物を見かけることもあります。
滑走路に入って離陸の許可を待っていると、地方空港でタヌキの親子がトコトコと前を横切ったり、冬の北海道の空港では離れたところからキタキツネがこちらをじっと見ているところに遭遇したりします。
最近一番驚いたのが、出発前の準備をしているときでした。
左にある機長席の後方から何やらゾクッと気配を感じました。ついに幽霊が出たかと思い、恐る恐るゆっくりと左後方に顔を向けるとそこには、窓ピッタリに顔を近づけて、中を覗き込まれていたご搭乗中のお客さまがおられ、目が合いました。興味を持っていただくのはとてもありがたいのですが、元来、人がいないところに顔があるとビックリしますので、もう少し離れていただけるとありがたいです…(笑)
ーー最後に、皆さんにメッセージをお願いします。
野口:同じ機内にいても、私たち運航乗務員は客室乗務員と違い、安全上の理由で直接お話しすることができませんが、今後もいろいろなかたちで、皆さんとお話しする機会を設けさせていただければ幸いです。
今後ともJALの翼をご利用いただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
前編、後編と長くなりましたが、最後までご拝読ありがとうございました。
今回は運航乗務員に寄せられた質問の回答後編をご紹介しました。
これからもJALグループ社員のお仕事中の面白いエピソードやお仕事の裏側をご紹介していきますので、どうぞお楽しみに!