先日JAL Facebookページで実施した、JAL運航乗務員への質問募集。短い募集期間にもかかわらず予想以上に多くのご質問をいただきましたので、その回答の一部をご紹介します!
今回質問に回答してくれたのは、機長の野口さん。野口さんは現在ボーイング737-800型機を操縦しており、これまでにボーイング747-400、MD-11、ボーイング767型機に乗務してきたそうです。(ボーイング747-400から順に、エンジンの数が4、3、2発と減っていますね!)
──ボーイング747-400、MD-11、ボーイング767、ボーイング737-800型機と乗務されたようですが、それぞれどのような飛行機でしたか?
野口:私が最初に副操縦士の訓練をし、操縦した旅客機がボーイング747−400型機でした。2階建ての当時世界最大の4発(エンジン)機で国内幹線と長距離国際線を主に飛んでいました。通称スカイクルーザー。速度も早く優雅に飛ぶイメージはクルーザーそのもので、それまでの3人(機長、副操縦士、航空機関士)乗りのジャンボ機と違って操縦士2人で飛ばせるようにコンピュータ化、自動化が進んだ先進性の高い旅客機でした。ちなみにタイヤの数は18本あります。
MD−11型機は、胴体後方の上部にエンジンを搭載したユニークな3発機です。スラリと伸びた主翼の先に鳥の絵が描かれており、見た目のバランスがとても美しい機体で主に国際線を飛んでいました。通称J−Bird。設計思想がほかのボーイング機とは大きく異なり、コックピット内のレイアウトやスイッチ、そして手順などがまったく違うことに驚かされました。同じアメリカ製の飛行機なのに面白いですね。
ボーイング767型機は、国内線からある程度距離のある国際線まで飛ぶことのできるオールマイティな双発機です。一部はアナログ計器が使用されており、液晶画面計器が主な今の飛行機に比べると少し時代を感じますが、基本設計がしっかりとした信頼性の高い旅客機で燃費もよく、今でもJALの翼を支えてくれています。
今、乗務しているボーイング737−800型機は、主に国内線と近距離国際線で使われている双発機です。ちなみに初期型の−100から派生し世界で多く飛んでいる旅客機のひとつです(シリーズ累計では、1万機以上製造されています)。短い路線を1日に何度も飛ぶことを目的につくられており、整備もしやすいのが特徴です。航法システムも充実しており、いろいろな空港のいろいろな進入方式に対応できるようになっています。ほかの3機種に比べると小さな旅客機ですが、小回りのきくスポーツカーの感覚です。ちなみにタイヤの数はジャンボ機の1/3の6本です。
──そのなかでも、野口機長はどの機種がお好きですか?
野口:どの機種が好きですか?という質問は、とても難しいですね。どれも思い出深い機種なので。
あえて、ひとつあげるとするならばボーイング767型機です。それは、一番長く乗務してきたこともありますが、機長に昇格した際の機種でもあり、本当に多くのことを教えてくれました。またフライトタイムが40分と短い路線から、10時間を越える長い路線まであって就航路線も多岐にわたり、毎回楽しく新鮮な気持ちでフライトに臨んでいました。
飛行機はその用途や目的に合わせて、無駄のないように設計されています。また、時代の技術革新に合わせてどんどん進化していきます。そのため翼や機体の形状もコックピットも、そして私たちの飛行手順や考え方も違ってくるのです。パイロットは、そうした変化にも対応することが求められます。
JALグループでは、路線に合わせて最新鋭機エアバスA350型機やボーイング787型機などさまざまな種類の飛行機で皆さまのご搭乗をお待ちしています。今度ご搭乗いただいた際は、それぞれの機体の違いを知って楽しんでみてください。
──「この空港は好き」「難易度高く操縦しがいのある」という空港があれば教えてください。
野口:降下しながら滑走路に向かって着陸するまでには、管制官と調整しあらかじめ決められたコースに沿って滑空(進入)していきます。これを進入方式と言います。各空港の滑走路の方向それぞれに対して、この進入方式が定められています(滑走路の方向は基本的に向い風になるように使用します)。
これまで国内外いろいろな空港に行きましたが、思い出深いのが、かつてあった香港啓徳空港です(懐かしいと感じる方も多いのではないでしょうか)。
空港近くまで山に囲まれ、その山の間を縫うように進入方式が設定されていました。特に滑走路13(南東方向)に降りる場合、まず空港の西から東に向かって進入しますが、その際空港のすぐ北にある山から発射されている誘導電波に乗って進入していきます。つまり山腹にまっすぐ向かって高度を下げていくのです。そして高度約200メートル近くまで降下し、その後パイロット自身が右旋回(通称:香港カーブ)をさせ、街の建物のすれすれを飛行し滑走路に向かって着陸する方式です。この右旋回がうまく行かないと着陸をやり直すことになります。常に混雑しているうえ雷雲も多く、いつも技量を試されているな、と感じる空港でした。一方で百万ドルとも評されるほどに美しい夜景を眼前にしてのフライトは、言葉では言い表せません。
進入、着陸にあたって一番気になるのが、障害物や山そして天候です。空港近くに山がある場合、進入方式そして気流が複雑になる傾向にあります。特に日本は四季があり、地域によって天候も大きく異なるので、操作手順も変わります。空域も限られているため、目視でパイロット自身が考えて進入する機会の多い国内空港も、比較的難易度が高いですね。ですが、その分やりがいも大きいです。
そのためフライトの準備は毎日欠かせません。数日前から大局的に天気の変化を観察し、上空も含めた当日の天候や風向風速を予想し、事前にどういうフライトになるかをイメージしておきます。そしてフライト当日はその情報をアップデートして、そのフライトイメージを修正するということをしています。
──コックピットからの機長のあいさつについて、乗客の年齢層などを加味して話される内容を変えられたりしているのでしょうか?
野口:コックピットからのアナウンスは、唯一、ご搭乗のお客さまとの距離が近くなる場面です。アナウンス例はありますが、多くのJAL運航乗務員は、自分の言葉で工夫して行っています。
まず出発前に路線やお客さまの層を考慮して考えます。例えば修学旅行の生徒さん達が乗られていれば、同級生との旅の思い出となるようなアナウンスもしますし、より景色を楽しんでいただくようアナウンスのタイミングを変えることもあります。一方で、早朝の幹線などビジネスマンが多い場合は、ゆっくりとお休みいただくため、あえてアナウンスを控える場合もあります。
また、アナウンスは実際の経験を積むことも大事ですので、私は新人の副操縦士にも積極的にアナウンスをしてもらっています。しかし安全に関することは、なるべく機長の私からご案内するようにしています。
例えば、地上で何かトラブルが発生し、しばらく動かない状況が続いたとします。状況のわからないお客さまは不安になりますよね。その不安を取り除くためには、いちばん状況を理解している機長の声を通じて伝えることがとても重要だと考えているからです。今後もアナウンスを通じて、安全、安心をご提供できるよう、取り組んでまいります。
日本航空では、10月から「ladies and gentlemen」の文言を取りやめ、ジェンダーニュートラルな表現に変更いたします。時代に合わせた表現も必要です。
今回は運航乗務員に寄せられた質問の回答前編をご紹介しました。
次回は後編をご紹介しますので、どうぞお楽しみに!